Indigo Waltz

華は友達と公園で遊んでいると

お兄さんともおじさんとも取れる男が

見たことも無い黒くて大きなカメラを地面に向けていた。

人見知りがちな華だったが

地面の写真を撮る男がとても気になった。

恐る恐る近づこうとしたが友達に止められた。

男の風貌があまりにも怪しいからだ。(チンピラとかではなく民族衣装のような服装)

それでも華は、友達の制止よりも自分の好奇心を優先させる。

近づいてみると男は地面ではなく蝉の屍骸を撮っていた。

正確には蝉の屍骸を運ぶアリを撮っていたのだ。

華のあとを追ってきた友達はそれを見てキャッと声を上げる。

その声で男が華たちに気づく。

ぼさぼさの髪から覗く顔は近くで見てもお兄さんかおじさんか判断できなかった。

男は華の同級生のような顔でニッと笑い

カメラについているモニターを華に見せた。

そこには蝉の屍骸を運ぶアリが理科の教科書のように鮮明に写っていた。

友達は更に声を上げ目を覆って逃げたが

華にはそのグロテスクとも取れる画像から目が放せなかった。

「きれい…」

思わず出た言葉だった。

「だろ。こいつらは飯を食うために必死なんだ。」

男はそう言ってまた写真を撮り始めた。

華はもっと話を聞きたいと思ったが

男は写真に夢中で華のことなど見えていないようだった。

その様子にちょっとムッとしたが、華はその場から離れられなかった。

空が暗くなり始め撮ることをあきらめた男は華を見た。

「まだいたのか、ちびっ子。写真好きか?」

男はそういうと華の返事も待たずにカバンから緑色の箱を取り出し華に差し出した。

「やるよそれ、もう使わないけど、まだ使えるから」

華が戸惑っていると遠くから女の人の声が聞こえた。

「バムー、帰ろー」

どうやら男を呼んでいるらしい。

派手な格好だがきれいな人だった。

男の恋人なのだろうと漠然と華にも理解できた。

そして少し胸が締め付けられる感じがした。

バムと呼ばれた男は去っていき、手には緑の箱が残った。

使い捨てのカメラだった。

華にとっては見たことの無いものであったが

カメラであることは直感的に理解できた。

急いででアリを探したがもうあたりは暗くて何も見えなかった。

ーーーー略ーーーーー(数日間つかい捨てカメラと格闘)

枚数上限まで撮りきったカメラを手に公園でバムを見つける華

お気に入りのピンクの靴を履いてきたことに幸運を感じる。

カメラのお礼を言わなければ。

そして、この緑の箱から自分の傑作を取り出してもらわなければ。

バムのような写真を取れるようになればバムはもっと話をしてくれる。

華はそう思って写真を撮っていた。

大きな木にカメラを向けているバムに駆け寄る。

相変わらずファインダーを覗くバムは周りが見えていない。

華がちかづいたことに当然気がつかない。

そのことがまた華をイラつかせた。

が、自分の撮った写真を見せればきっとバムは自分に興味を持ってくれる。そう思い

『おい、バム!』

生意気な挑戦者さながら仁王立ちでバムを指差す。

と同時に、バムのカメラの先に

木の陰でさっきまで見えていなかったきれいな女性が立っているのが見えた。

その女性がこの前見たバムの恋人であることが直ぐにわかり

きゅうに自分の持っているカメラが恥ずかしさの象徴のように思えた。

あわててカメラを持っていた右手を背中に隠すと

バムはカメラを構えたまま振り向いた。

「お、この前のちびっ子じゃん」

といいながらシャッターをぱしゃりと一枚きった。

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